インスリン治療
インスリンが発見され、治療に使われるようになって、およそ100年が経ちました。最初はウシの抽出液だったインスリンも化学的に生産されるインスリン製剤となりました。インスリン治療を始めるために入院の上、自己注射の手技を覚えたり薬剤の管理が大変だったりと、インスリン治療は面倒なものというイメージがありました。しかし、近年では治療開始も外来で行えるようになり、また様々なタイプのインスリン製剤が開発され、2023年には米国で週に1度注射するだけでよい製剤の開発も発表されています。さらに注射方法も進歩し、近年では針無しの注射器も開発されており、患者様のインスリン治療に対するハードルはどんどん低くなってきています。
インスリンとは?
インスリンは膵臓にある膵島(ランゲルハンス島)にあるβ細胞から分泌されるたんぱく質型のホルモンです。インスリンは血液に含まれるブドウ糖と脂肪の代謝にかかわっており、とくにブドウ糖を臓器や筋肉、脂肪細胞などに取り込み、エネルギーに換えたり、蓄積したりする働きをしています。
食事をすることによって、我々の血液中にはブドウ糖が増えてきます。しかし健常な身体であれば、すぐに膵臓からインスリンが分泌され、ブドウ糖を細胞にとりこませ、余った分は肝臓や筋肉に蓄積するなどの処理をするため、1時間程度で血糖値が治まってくるようになっています。
β細胞が破壊されてインスリンが分泌されなくなってしまうと、血糖値のコントロールがまったくできなくなる1型糖尿病になり、インスリンの分泌が不足していたり、細胞でうまく利用されなくなったりすると、血糖値が上がった状態が続く2型糖尿病になります。血糖値が上がったままの状態が続くと、ブドウ糖が多くふくまれたドロドロの血液となり、血管に大きな負担がかかることで様々な合併症を発症するようになります。
インスリン治療とは
人間の血液には常に一定量のインスリンが含まれていますが、食事によって血糖値が上がると、そこに膵臓から即時的にインスリンが追加分泌されて、上がった血糖値を下げ、一定の値に保つように働きます。
インスリンが分泌されない、不足している、うまく働かないといった状態になるのが糖尿病で、インスリン治療はインスリンを人工的に投与することで、インスリンが自然に血中に含まれる状態や、血糖値が上がると追加分泌される状態を再現しようとするものです。このとき、血中に一定に含まれるインスリンの状態を再現するためには中間型インスリン製剤や持効型溶解インスリン製剤などを使用します。また食後血糖を下げるために緊急分泌される状態の再現には超速効型や速効型のインスリン製剤を使用します。この両方の効果を再現できる混合型のインスリン製剤も開発されています。
1型糖尿病の場合、インスリンがまったく分泌されないか、分泌されても非常に少ないために、原則はインスリン治療が必須となります。インスリン治療ができるまでは、飢餓療法といって食事を極端に制限するだけの非常に過酷で効果の低い治療しかありませんでした。そのためインスリン治療は、奇跡とまでいわれていたほど効果的なものでした。
一方2型糖尿病の場合、最初は生活習慣の改善、続いて様々なタイプの血糖値を下げる薬という選択肢があります。こうした治療が効果をあらわさない場合に、インスリン治療となります。
ただし、最近では高血圧を合併している患者様や妊娠糖尿病の患者様などには、早期のうちからインスリン治療を導入することで、高血圧によってかかっている膵臓への負担を減らすことができなどの利点があり、新しい治療法として注目されています。
実際のインスリン治療については、患者様それぞれの状態やお出しする薬によって異なってきます。インスリン治療による低血糖発作を避ける意味でも治療開始前や初回治療の際に詳しくご説明しておりますので、その用法に従って自己注射を行ってください。なお、ご説明の際、わからないこと、心配なことがありましたら何でもお気軽にご相談ください。
外来でできるインスリン治療
以前は、インスリン治療を始める際には、初回の投与の際に1週間程度入院して、注射の手技や注射器と薬剤の管理方法などを学ぶ必要がありました。
しかし、近年になって、糖尿病専門医がいる医療機関では、外来でその指導のもとでインスリン治療を始めることが可能となりました。
インスリン製剤のタイプも様々なものが開発され、注射器もどんどん改良されており、噴霧タイプで針のない注射器も登場してきています。
さらには、近年では1日1回のインスリン注射で保険適応でフリースタイルリブレの使用が認められるようになりました。
(リブレのリンク貼ってもいいかもです)
当院ではそのような選択肢の中から、できるだけ患者様のライフスタイルを損なわないよう、カスタマイズされたインスリン治療を提案しておりますので、お困りの方はいつでもご相談ください。