脂肪肝について
肝臓に中性脂肪がたくさんたまってしまっている状態が脂肪肝で、正常な細胞がそのぶん減ってきて肝細胞はスが入ったような状態になっています。肝臓は人体で一番大きな臓器で、多少病変があっても代替が効いてしまうため、気づかないうちに進行すると、肝炎を発症し、肝硬変からやがて肝がんになってしまうこともあります。現代では日本人の3人に1人が脂肪肝という報告もあるほど国民病の一つです。
脂肪肝の原因
食品から取り込まれた糖質や脂肪は小腸で吸収されて、脂肪は脂肪酸に、糖質はブドウ糖になって細胞のエネルギーとして利用され、余った脂肪酸とブドウ糖は肝臓で中性脂肪として蓄積されます。中性脂肪は空腹時などにエネルギーが不足すると、リパーゼという酵素によって再度脂肪酸とグリセロールに分解されてエネルギーとして使用されます。
この蓄積と再使用のシステムは、脂質や糖質の摂取量とエネルギーとして使用する量のバランスが保たれているうちは良好に働きますが、運動量などが減って需要が低下したにもかかわらず、摂取量が変わらない、または運動量はあっても摂取量が多すぎるといったケースでバランスが崩れると、蓄積される脂肪量が多すぎて肝臓で中性脂肪の蓄積率が高くなり脂肪肝が発症します。脂肪肝は全肝細胞の30%以上が脂肪化している状態と定義されています。
原因として一番多いのは、アルコールの飲み過ぎによるアルコール性脂肪肝です。週5日以上の頻度で日にビール中瓶5本以上を飲む大酒家に分類される方の80%に脂肪肝が認められるという報告もあります。
一方、アルコールを飲まない方でも近年脂肪肝になる方が増えてきています。肥満や無理なダイエットによって脂肪肝になる場合があります。
お酒を飲まない人も脂肪肝に!
肝臓というと飲酒とダイレクトに結びつくほど、アルコールと肝臓の関係は深いものがありますが、近年食生活の変化などの影響もあってか、日本でもアルコールを飲まない方の中で脂肪肝になる人が増えてきています。お酒を飲まないにもかかわらず脂肪肝になる原因は、ほとんどが食べ過ぎで、肥満や内蔵脂肪型肥満に加えて、糖尿病や脂質異常症などを発症している方に多い傾向があります。
従来、アルコールを飲まない方の脂肪肝は、肝炎、肝硬変などに悪化していかないと考えられていたのですが、近年の研究では、アルコールによらないタイプでも肝炎から肝硬変、肝臓がんへと進行することがわかってきました。このタイプの脂肪肝を、肝炎、肝硬変にまで進行した状態も総称して非アルコール性脂肪肝疾患(Non-Alcoholic Fatty Liver Disease: NAFLD=ナッフルドまたはナッフルディー)と言います。
NAFLDは単純に脂肪肝の状態から進行して肝細胞に炎症をおこすようになると非アルコール性脂肪肝炎(Non-Alcoholic SteatoHepatitis:NASH=ナッシュ)と呼ばれるようになります。
NASHになっても適切な治療をせずに放置することで、高い確率で肝硬変や肝臓がんに移行していきます。
また、糖尿病を合併している場合、肝硬変での死亡が多くなることも知られており、脂肪肝の状態は非常に危険性が高く、適切な治療が必要であることがわかってきています。
健康診断などで、脂肪肝を指摘された場合は、放置せず、すみやかに医療機関を受診して適切な治療を行うようにしましょう。
脂肪肝の症状
脂肪肝になっても、まず自覚症状があらわれることはありません。静かに進行していくため、「肝臓は沈黙の臓器」ともいわれるほどです。しかし、そのまま放置すれば、次第に悪化し、肝細胞に炎症をもたらす脂肪肝炎へ移行してしまうほか、脂肪肝の状態になるほどエネルギー消費と蓄積のバランスが悪い状態では、脂質異常症も進行している可能性が高く、脂質異常症による動脈硬化の影響で、全身の血流が悪くなり、疲れやすい、集中できないといった症状があらわれることもあり、さらに進行すると冠動脈障害から心筋梗塞や狭心症、頸動脈障害から脳血管障害などをおこすリスクが高まってしまいます。
脂肪肝の検査
脂肪肝だけではほとんど自覚症状がありません。多くの場合、企業や自治体が行う定期的な検診の血液検査や肝機能に関する指摘を受けて気づくケース、同様に腹部超音波検査で指摘を受けて気づくケースが増えています。血液検査ではAST(GOT)とALT(GPT)という肝臓でつくられる酵素の値に注目します。その結果ALTよりASTが高値の場合はアルコール性肝炎や肝硬変などが疑われ、ASTよりALTが高値の場合は肝炎や脂肪肝などが疑われる傾向があります。
また、腹部超音波検査では、肝臓全体に脂肪肝がひろがっている場合、肝臓の部分が白く光っているように映りますので、「ブライトリバー」などと呼ばれることがあります。また、肝臓に一部が白く見える部分的な脂肪肝もあります。
健康診断などで肝臓の数値を指摘された場合には、放置せずに必ず専門医を受診して精密検査をうけることをお勧めします。
脂肪肝の対応法とセルフケア
アルコール性の脂肪肝の場合、何よりも禁酒が一番の治療です。完全な禁酒でなくても、減酒だけでも効果的と言われています。一日のアルコールの適量は日本酒にして1合(180mL)、ビールにして500mL以内とされています。
また、生活習慣病としての脂肪肝であるNAFLDの場合、その原因となる肥満や高血糖などを解消するために、生活習慣の改善が大切です。
食事は規則正しく1日3食を摂り、内容のバランスやカロリーの摂り過ぎに気をつけましょう。また有酸素運動を適切に行うことも大切です。有酸素運動は筋肉を動かす際に酸素を消費しながら行う運動で、ジョギング、ウォーキング、スイミング、サイクリング、エアロビクスなどがその代表です。中でもお勧めは特殊な準備が必要ないウォーキングで、だれでも始めやすく、1日30分程度から毎日歩く習慣をつけるようにしましょう。中性脂肪は筋肉で燃焼されます。そのため、筋トレによって筋力をつけることで脂肪が燃焼されて中性脂肪として蓄えられることを防いでくれますので、運動はその面でも効果的です。
定期的に休憩をとり、帰宅したら入浴などでリラックスし、しっかりと睡眠を取る、休日はしっかりと身体と心を休めるなども大切です。
定期的に受診して肝機能の推移を経過観察し、手遅れにならないうちに適切な処置をとっておくことも大切です。