問診
糖尿病は、ほとんど自覚症状のない病気です。そのため、少しでも血液検査の値に異常がある場合は、糖尿病によくある症状でご自身では気づきにくいものなどを、医師の方から質問して掘り下げていくような手法をとり、その結果を受けて様々な検査を行った上で結果を総合して診断につなげていきます。糖尿病の症状は患者様それぞれで異なりますが、患者様ご本人は自覚していないようなポイントを引き出して正しい診断を行うことが糖尿病専門医の役割の一つでもあります。以下のような項目が質問のポイントとなります。
- 自覚症状があるか
- 自覚症状がある場合には、どのような症状があらわれているか
- 現在の体調に気になる点はあるか
- 過去にどのような病気をしたか
- 直近で体重の変化があったか
- 血縁の家族などに糖尿病にかかった人がいるか
- 食事習慣や運動習慣について
- 喫煙や飲酒の程度
- ストレス、過労などがないか
など
尿検査
尿検査では、尿糖、尿たんぱく、pH、ケトン体などについて検査します。尿糖は尿に糖分がでているかどうか、尿たんぱくは腎臓障害の傾向がないかどうかがわかります。
また、尿は通常pH値が6.0程度のややアルカリ性を呈しています。この数値が下がるほど糖尿病などが疑われる状態です。ケトン体は脂肪が分解されたもので、通常尿中には含まれません。栄養状態が非常に悪いときに陽性となり、糖尿病の管理が悪い場合などに血中に含まれます。ただし、尿検査だけでは糖尿病かどうかの確定診断ができませんので、尿検査の結果と併せて詳細な血糖測定検査、ブドウ糖負荷検査などを行います。
血糖測定検査
血液検査で、血中のブドウ糖量を測定する検査で、検査項目としてはグルコースと表記されていることがほとんどです。血糖値の測定方法には、主に空腹時血糖値と随時血糖値を行います。
空腹時血糖値は、正確には10時間以上絶食した後に血液を採取して血糖値を測る方法で、一般的に、朝食を抜いて検査を行います。この検査では126mg/dL以上の数値であった場合糖尿病型と判定されます。
血糖値は食事時間に関係なく計測した血糖値で200mg/dL以上で糖尿病型となります。
ブドウ糖負荷検査は、まず空腹時血糖値を測り、その30分後、1時間後、2時間後にそれぞれ血糖値を測定します。そのため院内滞在時間が長い検査で、朝9時頃から開始するのがよいとされています。2時間後の測定値が200mg/dL以上で糖尿病型と診断されます。
なお糖尿病型とは、これらの検査のうちどれか一つでも異常値となった場合を言い、日をあらためて同じ検査を行い、再び異常値となった場合糖尿病と診断されます。
また、これらの検査のうちどれか1つでも糖尿病型となり、HbA1cの値が6.5となった場合も糖尿病と診断できます。
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HbA1c
HbA1cとは
HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)は、赤血球の中にある酸素運搬の働きをもつたんぱく質にブドウ糖が結びついたものの分量をパーセンテージで示す数値です。ヘモグロビンにブドウ糖が結合すると離れることがないことと、ヘモグロビンの寿命が120日程度という性質を利用して、直近1~2か月の間の平均血糖値をあらわす数値です。食事の影響を受けず、長期的な血糖値の変動を観測できるため、近年では血糖値よりこちらの数値を糖尿病管理の目安とするようになってきています。
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血糖値との違い
血糖値は、食事や運動などの影響をうけて、一日のうちでも大きく変動します。とくに糖尿病になると大きく変動するようになるため、診察室における定期的な血糖値の計測だけでは、正確に血糖値の変動を捉えにくいという現状があります。そのため、家庭で簡易血糖値測定器を使用して空腹時、食後すぐ、食後2時間などの血糖値を測り続ける方法もありますが、なかなかハードルが高く、また正確な計測ができているかなどの問題もあります。
それに比べて、HbA1cは1~2か月間の平均的な血糖値の状態をあらわしますので、血糖値の変動による影響も数値に織り込まれることになり、早期糖尿病などを含めてより正確な状態があらわされることになります。
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HbA1cの正常値
日本糖尿病学会では、HbA1cの正常値を4.8~6.2%の間と定めています。その上で6.0~6.4%の間の場合糖尿病の可能性を否定できないとし、6.5%以上を糖尿病が強く疑われる状態としています。
また、地方自治体が行う特定保険指導では、正常値を5.6%以下としています。一般的な考え方では、5.5未満を正常値とする傾向があります。
なお、すでに糖尿病と診断されている患者様の場合は様々な合併症のリスクを下げるために、HbA1cの値を7.0以下にコントロールすることが目標とされています。しかし、一口に糖尿病といっても患者様それぞれに状態がことなりますので、使用している薬や患者様の年齢などに応じて目標値をさらに下げることなどを検討する必要があります。
新しい血糖管理指標のグリコアルブミンとは
HbA1cは、ヘモグロビンの糖化産物(ヘモグロビンとブドウ糖が結びついたもの)で、ヘモグロビンの寿命がおよそ120日という性質を利用して、その間の平均値をあらわすものです。ただしこれはおよその数値であって、かならずしも正確な数値ではありません。そのため、HbA1cで血糖値の状態を評価する際は、必ず血糖値も計測し総合的に評価していく必要があります。また、ヘモグロビンの120日という寿命も必ずしも正確ではなく、正常な場合でも100~140日と振れ幅があることで、この点からもざっくりと平均的な血糖値の動向を見るという程度になります。
HbA1cが低値になる理由としては、妊娠や慢性腎不全、溶血性貧血などによって赤血球の寿命が短くなってしまうことや、貧血の治療でEPOや鉄剤などを服用し、貧血が回復してきたためにヘモグロビンの産生量が増えてしまったことなどがあります。
一方、HbA1cが高値になる理由としては、鉄欠乏性貧血などで赤血球の寿命が長くなってしまったことや、ヘモグロビンの産生量が何らかの理由で減ってしまったことなどが考えられます。
とくにHbA1cは1~2か月と長期的な血糖値の平均をあらわしており、短期的な急激な血糖値の変化には追随できない可能性が高いという点などを考慮して開発されたのが、同じ血中たんぱく質の一種でブドウ糖と結びつきやすいアルブミンを使ったグリコアルブミン値による検査です。
グリコアルブミンは、アルブミンとブドウ糖が結合した糖化産物で、半減期が2~3週間と比較的短い期間であり、また血糖値の動きに敏感でとくに血糖の変動が大きいほど数値が高くなる傾向があります。この性質を利用して、血中のグリコアルブミンをパーセンテージであらわしたものがグリコアルブミン値で、15.6%未満が正常値、15.6~16.5%未満が正常高値、16.5~18.3%未満が境界域、18.3以上が糖尿病域とされています。
グリコアルブミン値は2000年の初め頃から使用されはじめ、2009年には献血時の血液検査の項目としても採用されるようになるなど、急速に拡がりを見せています。
HbA1cは、比較的安定した糖尿病の長期的コントロールに対して力を発揮しますが、グリコアルブミン値は直近2~4週間という比較的短期間での変動に強いため、短期間で変動の大きいタイプの血糖値コントロールや、前述したようにHbA1cの値が正確にならないケースなどでも有効なため、両者をうまく使いわけていくことでより正確な血糖値コントロールができるようになります。
糖尿病の合併症と検査
糖尿病は合併症のデパートと言われるほど、多くの合併症があります。その中でも、血糖値が上昇するとすぐにあらわれてくる「急性合併症」と、長期的に高い血糖値にさらされることによって生じる「慢性合併症」とに分けて考えることができます。
急性合併症とは
尿路感染症などの急性感染症が多いのですが、その他にも治療にともなう低血糖、急にインスリンの必要性が高まった状況で血液が300mg/dL以上の血糖値、高ケトン体、アシドーシス(酸性化)などの状態となった糖尿病ケトアシドーシスなど意識障害をともなうものもあり注意が必要です。特に意識障害がおこった場合には、緊急入院の上治療が必要となります。
慢性合併症とは?
細小血管障害
目の網膜、腎臓の糸球体近辺、足先や手先などにある毛細血管などの細い血管が、高血糖によるドロドロの血液の成分によって障害されておこるものです。
主な疾患としては
- 糖尿病網膜症
- 糖尿病腎症
- 糖尿病神経障害
の三大合併症が挙げられます。
大血管障害
全身へと血液を流通させる基幹部となる大動脈、心臓にかかわる冠動脈、脳につながる内頸動脈など、下肢全体の血流を受け持つ下肢動脈などの太い血管におこる動脈硬化症が大血管障害です。血糖値の変動が大きいと進行しやすくなるため、HbA1cだけではなくグリコアルブミン値や血糖値も総合し、さらに患者様それぞれの年齢、生活スタイル、体格なども考慮にいれて判断していく必要があります。
大血管障害の主な疾患としては
- 脳梗塞など脳におこる血管障害
- 狭心症や心筋梗塞など心臓におこる血管障害
- 閉塞性動脈硬化症など下肢動脈におこる血管障害
- 狭心症
- 糖尿病性足病変、歯周病、認知症などその他の血管障害による疾患
などが考えられます。
糖尿病合併症検査
血管の検査
動脈硬化・血管年齢検査(ABI)
健常な人は上腕の血圧より、足首で測定した血圧のほうが少し高くなりますが、糖尿病などで動脈硬化があり、血管に狭窄や閉塞があると足首の血圧の方が低くなる傾向があります。これを利用して、上腕と足首の血圧を同時に測り、その比率を計算することで動脈硬化の進行具合測定することができます。さらに脈が伝わる時間と年齢の相関関係から血管年齢を割り出すことも可能です。
正常値は1.0~1.3の間で、数値が低くなるほど動脈硬化が進行していることをあらわしています。
下肢に動脈硬化があり血流が阻害されることで、足に潰瘍ができやすくなります。さらに糖尿病神経障害があると、潰瘍が起こっていることに気づかないこともあります。また血流障害によって、足指などが壊死してしまうこともあり、最悪は下肢切断ということになりかねないため、ABIの数値が低い場合、注意深く観察が必要になります。
頸動脈超音波検査
頸動脈は、首の部分で脳に血液を送る内頸動脈と、顔面に血液を送る外頸動脈に分岐します。
この部分を頸動脈分岐点と言いますが、動脈硬化をおこしやすい部位として知られています。この部部の動脈壁の厚さを計測することで、動脈硬化の進行度合いがわかり、脳血管障害、心筋梗塞などのリスク判定が可能になります。
糖尿病網膜症の検査
眼底検査
散瞳薬を使用し、瞳孔から特殊な光学装置をつかって、新生血管がないか、むくみがないかなど、網膜の状態を観察します。
蛍光眼底造影検査
傾向造影剤を静脈折から注射し、網膜の血管に届くころを見計らって、眼底の状態を連続的に撮影します。網膜の毛細血管の状態が造影剤によって浮き彫りになり、新生血管や網膜の虚血などの状態が観察できます。
糖尿病網膜症も早期のうちなら、適切な治療で視力の低下を防ぐことができます。そのため、できるだけ早期発見が大切ですので、視力に問題がなくても眼底検査を定期的に受けておく必要があります。
なお、網膜症の検査は眼科領域のものとなるため、当院と連携する眼科医院を紹介して検査をうけていただく形になります。
糖尿病腎症の検査
尿検査で、糖やたんぱく質、ケトン体、アルブミン排出量などの検査をおこない、血液検査で糸球体の濾過量を調べます。