- 慢性的な便通異常(下痢・便秘)
- 下痢
- 下痢の原因
- 下痢を引き起こす疾患
- 下痢で受診した際の検査
- 下痢で受診した際の検査
- 便秘とは
- 便秘の原因
- 便秘の診断基準
- 便秘を引き起こす疾患
- 便秘で受診した際の検査
- 便秘の治療方法
慢性的な便通異常(下痢・便秘)
続く便秘や下痢、下痢と便秘の繰り返しなどについて体質として放置してしまう方もいらっしゃいますが、こうした症状の陰には様々な疾患が隠れている可能性があります。
これらの便通異常が慢性的に続く場合は、まずはかかりつけ医などにご相談ください。
どの症状も適切な治療を受けることで改善しますし、再発も防止できるようになります。
下痢
消化された食物は、もともとの水分や消化の過程で追加される分泌液などが含まれた状態で大腸に到達します。大腸で適切な時間をかけて水分が吸収されていき、一般的な便は水分が70~80%程度含まれた状態で直腸に少し溜められたあと排泄されます。ところが何らかの理由でこの水分が吸収されず、80~90%水分が含まれたままだと軟便、90%以上水分が含まれていると水様便となり下痢の状態になります。
早急な受診が必要な下痢症状
- 急におこった激しい下痢
- 吐き気・嘔吐をともなう下痢
- 安静にしていてもどんどん悪化する下痢
- 排便しても腹痛が治まらない
- 下痢とともに粘液がでて血が混じっていた
- 水分が補給できず脱水気味
など
下痢の原因
下痢は、症状の続く期間で、14日以内の急性下痢、30日を超えて続く下痢を慢性下痢と分けており、それぞれ原因が異なります。
急性下痢
急性の下痢の原因として一番多いのは、ウイルスや細菌感染による胃腸炎です。とくにウイルス性の胃腸炎は、下痢の症状が比較的短時間で改善する特徴があります。その他の原因としては、薬の副作用による下痢、水あたり、冷えなども考えられます。
慢性下痢
過敏性腸症候群の下痢型と下痢と便秘を交互に繰り返す混合型、クローン病や潰瘍性大腸炎といった難病指定の特発性炎症性腸疾患、大腸がんといった疾患のほかに、抗菌薬などによる腸内細菌層の変化、ストレスなどの心因性のものなど様々な原因が考えられます。
上記のように重篤な疾患の症状としてあらわれていることもありますので、下痢が続くようならお早めに受診してください。
下痢を引き起こす疾患
ウイルス性胃腸炎
ウイルス性胃腸炎は感染性胃腸炎とも言われ、いわゆる「お腹の風邪」です。原因となるウイルスにはロタウイルス、ノロウイルス、アデノウイルスなどがあり、症状としては下痢に加えて吐き気・嘔吐、腹痛、発熱などがあります。
クローン病
口から肛門まで、消化管全体のどこにでもランダムに炎症を生じる疾患で、原因がはっきりとわからず、完治できる治療法も確立されていないため、国の難病に指定されています。好発部位は小腸の大腸よりから大腸の小腸やよりにかけてで、腹痛をともなう下痢や血便などが主な症状で、症状の激しい活動期(再燃期)と症状のない寛解期を繰り返すのが特徴です。症状のない寛解期をできるだけ長く続ける治療で、発病前の日常生活を送ることも可能です。
潰瘍性大腸炎
直腸から始まって大腸内に連続的に炎症が拡がっていく疾患で、クローン病と同様原因が不明で完治方法が確立されておらず、国の難病に指定されています。また活動期(再燃期)と寛解期を繰り返す点も似ていますが、潰瘍性大腸炎は炎症が大腸のみに限定されることが異なります。主な症状は下痢、腹痛に粘血便で、寛解期をできるかぎり長く続ける治療で以前の日常をとりもどすことも可能です。
過敏性腸症候群
腹痛をともなう便通異常があって、排便にともなって症状が改善し、月のうち何回もそういった症状を繰り返していること、検査をしても下部消化管に器質的な病変、内分泌的な異常、全身性の疾患などが見当たらない場合、過敏性腸症候群が疑われます。便秘型、下痢型、混合型、分類不能型の4つに分けられ、混合型は下痢と便秘の繰り返し、分類不能型は膨満感やガスッ腹などの症状をおこします。機能性ディスペプシアと同様、消化管の運動機能や知覚機能に異常がおこる機能性胃腸障害(FGID)に分類される疾患です。
下痢で受診した際の検査
問診で症状や経緯、既往症、直近に食べた物、服用中の薬、海外渡航歴などについて詳しくお聞きした上で、必要な検査を行います。検査は、血液検査、腹部超音波検査(エコー)、大腸内視鏡検査(大腸カメラ)などです。
なお、当院では内視鏡検査は行っておりませんので、必要な場合は連携する医療機関を紹介して検査を受けていただきます。
下痢の治療
急性下痢で、ウイルス性腸炎が疑われる場合は、無理に下痢を止めるとかえってウイルスの体外への排出を送らせて病気が長引く可能性があります。そのため水分を補給しながら安静に過ごすことが第一です。しかし、細菌感染が明らかな場合には、抗菌薬を使用することもあります。
慢性下痢の場合は、原因疾患をつきとめることが大切で、その際とくに有効な検査が大腸カメラ検査です。
検査によって原因がはっきりした場合、その疾患に対する治療を行います。検査によって過敏性腸症候群と診断できた場合には、腸機能改善薬などの適切な薬物治療と同時に生活習慣の改善などを行っていくことも必要になります。
便秘とは
日本消化器病学会では、便秘を「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」(日本消化器病学会:慢性便秘症診療ガイドライン2017より)と定義づけています。
具体的には、数日便が出ない状態が続く、強くいきんでも少量のウサギの糞のようなコロコロした便しか出ない、便は出るが出きらない感じ(残便感)があるといった症状です。
過剰なダイエットや食習慣、運動不足などによる便秘もありますが、大腸がんなど重篤な疾患がひそんでいることもありますので、便秘が続く場合、専門医を受診して原因を明らかにすることが大切です。
便秘の原因
生活習慣
生活習慣では、食習慣、運動習慣などが原因となって便秘になることがあります。
食習慣の面では、3食を規則正しく摂らない、朝食を抜いてしまうといった食事の方法やタイミングなどの問題、食物繊維不足、極端な偏食などの食事内容の問題のほかに極端なダイエットなどで食べる量が少なすぎる場合、便の材料が不足して便秘となることもあります。
一方、加齢によって筋力が弱くなってくると、便を出すための腹筋、骨盤底筋群、肛門括約筋などの働きも弱くなって、うまく便が出せず便秘となることがあり、これは極端な運動不足による筋力低下でも同様のことがおこります。
さらに便秘の原因となるのは、便意を我慢する習慣です。それによって、だんだん直腸に便がたまっても便意を感じなくなって直腸に便がたまりすぎてさらに便がでにくくなります。
疾患
過敏性腸症候群では便秘型と混合型(便秘と下痢が交互におこる型)で便秘がおこります。また進行した大腸がん、手術痕やがん、ポリープなどが便秘をおこす疾患として知られています。急に便秘することが多くなってきた、便秘が長期間続いているといった場合、こうした疾患の症状としてあらわれていることもあります。お早めに受診してください。
大腸がんによる便秘は要注意
大腸がんは早期においてはほとんど自覚症状がない疾患です。気づかずに進行させてしまうと、がんが大きくなって便の通り道を狭くしてしまい、そこを便が通過しにくくなって便秘をおこしたり、便秘と下痢の繰り返しになったりすることがあります。また大腸ポリープが大きくなっても同様の症状がおこることがあります。大腸がんは早期のうちなら、内視鏡だけの簡単な手術で完治がのぞめます。また大腸ポリープは大きくなると一定の確率で大腸がん化することが知られています。少しでも心配がある場合、お早めに受診してください。
便秘の診断基準
日本内科学会が発行する「慢性便秘症診療ガイドライン2017」では慢性便秘の診断基準を以下のように定義しています。
1.「便秘症」の診断基準
以下の6項目のうち,2項目以上を満たす
a. | 排便の4分の1超の頻度で,強くいきむ必要がある. |
---|---|
b. | 排便の4分の1超の頻度で,兎糞状便または硬便(BSFS※でタイプ1か2)である. |
c. | 排便の4分の1超の頻度で,残便感を感じる. |
d. | 排便の4分の1超の頻度で,直腸肛門の閉塞感や排便困難感がある. |
e. | 排便の4分の1超の頻度で,用手的な排便介助が必要である(摘便・会陰部圧迫など). |
f. | 自発的な排便回数が,週に3回未満である. |
2.「慢性」の診断基準
- 6ヵ月以上前から症状があり,最近3ヵ月間は上記の基準を満たしていること.
※BSFS:ブリストル便形状スケール
「日本消化器病学会関連研究会・慢性便秘の診断・治療研究会編集『慢性便秘症診療ガイドライン2017』南江堂発行」から引用
便秘を引き起こす疾患
過敏性腸症候群
腹痛をともなう便通異常があって、症状が便通によって変化するような状態が続き、検査を受けても腸などに器質的な障害や全身に内分泌的障害、全身疾患などの徴候が見つからない場合、過敏性腸症候群の疑いがあります。何らかの原因で腸の運動機能・知覚機能に問題がおこり、便秘、便秘と下痢、下痢、膨満感などの症状があらわれます。排便しようと強くいきんでも、兎糞状便(ウサギの糞のようなコロコロとした小さな便)が少量でるだけという状態が典型的な過敏性腸症候群の便秘型の症状です。
腸閉塞症(イレウス)
腸管手術の傷痕に癒着がおこる、腸が捻れてしまう、進行した大腸がん、大きくなった大腸ポリープなどが原因で、腸が極端に狭窄したり塞がってしまったりすることで、便やガスなどがそこから先にすすまなくなることでおこります。腹痛や膨満感などにともなって、便やガスがでないといった症状が続きます。時に腸管の壊死がおこることもあり、緊急に受診が必要な疾患です。
大腸ポリープ
大腸ポリープは、放置して大きくなることで一定の確率で大腸がん化するため、前がん病変と呼ばれています。まず自覚症状があらわれないまま、10年以上の時をかけて大きくなり、20mmを超えて育つこともあります。大腸がんはこうしたポリープの内部組織ががん化したり、腸粘膜から直接発生したりすることもあります。いずれのケースでもほとんど早期には自覚症状がありません。しかし放置して大きくなることで便の通行が妨げられて便秘、便秘と下痢の繰り返しといった症状をおこすことがあります。少しでも異常を感じたらすみやかに専門医を受診するようにしてください。
便秘で受診した際の検査
便秘は、症状や経緯などのほか、便の状態・形状などについても詳しくお伺いしていきます。便秘は女性に多い疾患で、ついこうした状態を話すことを恥ずかしがって相談に訪れない方も多いのですが、思い切って医師に相談することで、確実に治療成果があがる疾患です。
詳しくお話をうかがった上で、必要に応じて、腹部超音波検査、大腸カメラ検査などを行うことになります。なお、大腸カメラ検査は当院では行いませんので、連携する医療機関を紹介して検査を受けていただき、結果の分析を当院で行います。
便秘の治療方法
便秘の原因は、生活習慣にあることもあり、なんらかの疾患からおこることもあります。様々な検査の結果、とくに疾患は見当たらず生活習慣に原因があると診断できる場合は、食事療法や生活習慣の改善、運動療法などをおこなうことで改善を望むことができます。
一方原因が疾患である場合は、その疾患にあわせて薬物療法や外科的治療を行うことを優先しながら、食事、運動などの生活習慣の改善もあわせておこなっていきます。