糖尿病による皮膚への影響
糖尿病になると、血糖値が常に高く、血液が重くドロドロになることで血管に大きな負担がかかります。これによって大血管が動脈硬化になると脳血管障害や心筋梗塞といった命にかかわる重篤な合併症がおこります。一方末端の血管でも血流障害がおこることで、神経障害や皮膚トラブルといった様々な合併症があらわれます。中でも、皮膚のトラブルは軽いものから、壊死をおこしてしまうような重いものまで様々です。
主な皮膚の症状
- かゆみ
- 乾燥
- チクチクした刺すような痛み
- 手足の感覚が弱くなった、なくなった
- ケガが治りにくくなった、化膿しやすくなった
など
なぜ糖尿病にかかると
皮膚に症状が出るのか
糖尿病なると多くの方が皮膚トラブルに悩まされるようになります。
高血糖による脱水症状
血糖値が高い状態が続くと、浸透圧が上がることで、皮膚が乾燥しやすくなります。乾燥した皮膚はバリア機能が低下することで、傷つきやすく、かゆみや痛みも感じやすくなります。
多尿により体内が
脱水傾向になる
浸透圧の影響は、皮膚だけではなく、腎臓にもおよび、多尿になりやすい状態です。ブドウ糖を尿で排出させるために尿量が増えると、同時に体内の水分も排出され、脱水がおこりやすくなり、皮膚も乾燥しやすくなります。
自律神経障害によって
発汗作用が低下するため
糖尿病の3大合併症の1つである糖尿病神経障害によって、末端の神経が痛むと同時に、自律神経に障害が及ぶと、汗をかきにくくなることで、肌が逆に乾燥しやすくなると考えられています。
糖尿病が引き起こす
皮膚の病気
糖尿病によって、血管障害から神経障害をおこしたり、脂質代謝異常の増悪をおこしたりすることで様々な皮膚疾患にかかることがあります。
糖尿病性水疱
糖尿病によって末梢の血管障害がおこり、突然、手・脚などの皮膚に水疱(みずぶくれ)ができます。高血糖による細菌や真菌などの病原体に対する抵抗力の低下によって感染症になりやすい状態になっているため、真菌(カビ)感染によって糖尿病性水疱がおこります。
成年性浮腫性硬化症
感染症などをきっかけとして、比較的若い世代で発症することの多い皮膚疾患ですが、糖尿病によってひきおこされることもあります。病名のとおり、顔、肩、首なども含めた全身のどこかに、むくみがおこりその後その部分の皮膚が硬化します。原因疾患の治療と、対症療法としての皮膚科的治療の両面を考慮します。
糖尿病性黄色腫
糖尿病に脂質異常症(高脂血状態)が合併しており、十分に血糖値をコントロールできていない状態、または重症の糖尿病で見られる合併症です。四肢の伸側(曲がりによって皮膚が伸びる側)の肘、膝のお皿、臀部などによく見られます。米粒から小豆の大きさ程度の黄色または赤褐色を呈する結節や丘疹の多発が特徴で、かゆみを伴います。
リポイド類壊死症
リポイド類壊死症は、変性したコラーゲン性の繊維(筋肉などに含まれる)にできる、免疫反応による炎症(肉芽腫)で、主に下腿部にピンクから黄色の境界がはっきりとしてツヤツヤとした腫れ物ができる疾患です。糖尿病による毛細血管の障害に起因する合併症とする説もありますが、現在のところ原因ははっきりとしていません。
糖尿病性皮膚潰瘍
糖尿病が進行すると、血管障害による虚血やそれによる神経障害、さらに易感染性(細菌などに感染しやすくなる)があらわれます。そのため皮膚、特に足指などに皮膚潰瘍ができやすくなります。この皮膚潰瘍はなかなか治りにくいのですが、神経障害によって患者様本人は気づかないことも多く、放置していると潰瘍部分が壊死して、足を切断しなければならなくなることもあるので注意が必要です。
糖尿病による皮膚病の予防
糖尿病によって皮膚病変をおこした場合、糖尿病に特徴的な、虚血、神経障害、易感染性といった状態から発症に気がつかないといった悪循環がおこります。
そのため、まずは皮膚病変をおこさせないよう、またおこったら早期に治療できるように予防と観察が大切になります。
- 毎日皮膚のチェックをおこたらない
- 乾燥させないよう、保湿に配慮する
- ホットカーペットの上でうたた寝など、低音ヤケドに注意する
といったポイントを抑えておくことが大切です。
まずは、血糖値をコントロールすることが大切ですが、それでも皮膚に気になる症状があらわれたら、すぐにご相談ください。
糖尿病による皮膚の
かゆみを防ぐために
皮膚にはバリア機能がありますが、乾燥によって皮膚の表面がダメージを受けることで、バリア機能は大きく低下し、そこから炎症やかゆみがあらわれます。乾燥を防ぐために、こまめにハンドクリームなどの保湿剤を使い、スキンケアを丁寧に行ってください。また、部屋も乾燥を防ぐために適切に加湿器などを使って保湿することが大切です。
以下にスキンケアのポイントをいくつか挙げておきますので参考にしてください。
紫外線を防ぐ
紫外線をまったく浴びないでいると、ビタミンD不足に陥るなどのマイナスの側面もありますが、必要以上に紫外線を浴びることは、皮膚に炎症(日焼け)やバリア機能の低下につながります。
紫外線の強い季節や時間帯に外出をしなければならない場合は、日焼け止めを使用する、つばのある帽子で顔や首が陰になるようにする、長袖の衣服にして腕を保護するなどの工夫が大切です。近年では、紫外線防止効果のある日傘なども開発されていますので、積極的に活用しましょう。
肌の乾燥を防ぐ
乾燥することで、皮膚の表面は水分が失われガサガサになってしまいます。それによって皮膚に本来そなわっているバリア機能も低下してかゆみが生じやすくなります。夏だから大丈夫、梅雨だから大丈夫と安心せず、保湿剤をつかったスキンケアは一年中続けることが大切です。
ただし、夏は汗で流れてしまいやすいなど、それぞれの季節にあわせた保湿剤選びをすることも大切です。ご自身にあった保湿剤をみつけるようにしましょう。
清潔の保持
外出で汗をかいてしまい、そのままにしておくと、皮膚についた汚れや老廃物、アレルゲン、細菌、ウイルスなどがお肌に貼り付いたままになってしまいます。発汗によって感染しやすい状態にもなっていますので、外出先ではこまめに汗をふく、手洗い、帰宅したらすぐにシャワーを浴びるなど、お肌の清潔を保つことで、かゆみのもととなる炎症を防ぐようにしましょう。
バランスのとれた
食事をする
偏った食事、脂っこい食事などは、胃腸に負担をかけて皮膚にも影響があらわれやすくなります。たんぱく質、食物繊維、ビタミン、ミネラルなどをバランス良く摂ることが大切です。
乾燥肌には、サバ、イワシといった青魚、カボチャ、ニンジン、ホウレンソウなどの黄緑色野菜などの食材がおすすめです。
まとめ
糖尿病は、かなり進行して様々な合併症があらわれるまで、ほとんど自覚症状のない病気です。そのため、企業などの定期健診の血液検査で血糖値について指摘を受けることや、他の疾患で病院を訪れた時の血液検査の結果から判明することが多くなっています。
こうした指摘を受けた場合はもちろん、日ごろの生活の乱れから生活習慣病が心配な方など、ちょっとした不安がおありでしたら、糖尿病を専門とする当院へお気軽にご相談ください。