咳(せき)とは
多くの方は風邪をひいたときなど咳がひどくなり、「息が苦しい」「眠れない」などといった経験をしたことがあると思います。また、市販の風邪薬を飲んでも咳がおさまらず辛い思いをする方もいると思います。
1回咳をするだけで、平均2kcal程度のエネルギーを消費すると言われています。1回だけをみるとたいしたことがないように感じるかもでしれませんが、1分に3回も咳をするこが1時間続くとおよそ360kcal以上のエネルギーを消費することになります。これは成人男子の平均的な基礎代謝の4分の1にあたる数値です。
そのため「咳やせ」という言葉があるほど、咳は大きくエネルギーを消費し、体調の悪いことに相乗してさらに体調を悪くする原因となってしまいます。
咳を症状とする疾患は、風邪やインフルエンザをはじめとして、気管支炎、気管支喘息、肺炎、肺がんといった日常的な疾患から重篤なものまで様々な可能性が考えられます。
原因を正確につきとめて適切な治療を行っていく必要があります。
咳の症状
咳は医療用語では咳嗽(がいそう)と言い、のどや気管などに異物などたまった場合に、それを口から外に排出しようとする生理現象です。
3週間未満の咳を急性咳嗽とし、3週間以上が遅延性咳嗽、8週間以上咳が続く状態が慢性咳嗽と定義されています。
咳には、コンコンと渇いた音の乾性咳嗽、ゴホゴホと痰がからんだような音の湿性咳嗽などのほか、ケンケンとイヌが吠えるような犬吠性咳嗽などがあります。
咳がどれぐらい続くかで原因をつきとめる
前述のように、咳が続く期間で急性(3週間未満)、遅延性(3~8週間未満)、慢性(8週間以上)の区別があり、それぞれの期間である程度その原因をつきとめることができます。
急性咳嗽は、風邪、インフルエンザなどウイルス感染によるものが多く、ほとんどは3週間未満で自然に治癒していきます。
3週間以上続く遅延性咳嗽では副鼻腔炎などによる後鼻漏(鼻水が喉の方へたれる症状)、気管支炎、咳喘息・アトピー咳嗽、胃食道逆流症、感染後咳嗽などが考えられます。感染後咳嗽は、風邪やインフルエンザなどのほか、マイコプラズマ(マイコプラズマという細菌の感染症)などの治療後にも咳だけが続く状態を言います。
長引く咳(慢性咳嗽)の原因は、遅延性咳嗽と同じものが多いのですが、それに加えて肺がんや肺結核も考えられます。
咳が続いている期間や、乾いた咳か湿った咳かといった咳の性質、そのもととなる疾患の様々な特性を考慮し、血液検査、呼吸機能検査など、適切な検査を行って総合的に診断していくことになります。
どのような時に咳がでるかで原因をつきとめる
咳は一般的には、眠っている間の夜中から明け方にかけてでやすい傾向があります。人間の身体は自律神経によってコントロールされており、目覚めているときは交感神経優位、眠っている間は副交感神経優位となっていますが、副交感神経優位の間は血管が拡がるなどの影響で咳のでやすい状態になることに関係してます。
そのほかにも、一日中咳が続く場合や、起きたときにでやすい、人と話しているときに咳き込んでしまうなどの状態によって、咳の原因をつきとめる参考になるケースがあります。
1日中続く咳
風邪やインフルエンザなどによる咳、それらが治ったあとにも続く感染後咳嗽、副鼻腔炎などによる後鼻漏といったケースでは、咳が1日中続く傾向があります。
起きた時、食後にでるせき(咳)
逆流性食道炎は、通常であれば胃と食道の境目がしっかりと蓋をされて、逆流することのない胃の内容物が、何らかのきっかけで食道へ逆流し続けることで、食道粘膜が炎症をおこした状態です。逆流は食後や眠っている間に多くおこるため、朝起きた時に咳がでやすい傾向があります。
起床時、午前中に多い咳
起きた時から午前中にかけて咳がでやすい場合は、気管支拡張症やびまん性汎細気管支炎が考えられます。気管支拡張症は文字通り気管支が拡がってしまい、痰がたまりやすくなって湿性の咳がでます。一方、びまん性汎細気管支炎は、細めの気管支の部分に慢性の炎症がおこり、痰がたまりやすくなります。どちらも寝ている間に痰がでやすい傾向があり、起きた時から午前中にかけて咳が多くなります。
夜中から明け方に多い咳
夜中から明け方の睡眠時には、副交感神経優位となっており、血管や筋肉が拡張・弛緩しているため喘息発作がおこりやすくなります。昼間は落ちついていても、寝付くとヒューヒュー、ゼーゼーとした喘鳴があらわれ、咳が出ます。
人と話しをするときや、意識すると咳がでる
風邪やインフルエンザなどが治ったあとも続く感染後咳嗽があると、人と話している場面などに咳き込むことがあります。また、心因的に咳がでてしまうようなタイプの方は、人と話していても意識してしまい、咳がでやすくなります。
咳(せき)の検査
咳のでる疾患は実に様々ですが、どのぐらい続いているのか、どのようなタイミングででるのか、どのような性質の咳かなどから類推した上で、血液検査、喀痰検査、肺機能検査(スパイロメトリー)など必要な検査を行います。
血液検査では炎症の程度や百日咳などの感染の有無、全身の様々な臓器の状態、内分泌の状態などを調べます。肺機能検査(スパイロメトリー)は呼吸能力の正常性や肺活量などを確認して、喘息、肺気腫、気管支拡張症などの有無を確認します。
マイコプラズマは、のど拭い法(LAMP法)でも確認することができます。
咳(せき)の治療
風邪やインフルエンザが原因疾患であれば、咳などの症状は自然に治っていくことがほとんどです。あまりに咳が激しく体力を消耗するようであれば、鎮咳薬(咳止め)などを処方します。
しかし、遅延性咳嗽(3~8週間未満)や慢性咳嗽(8週間以上)の場合は、鎮咳薬で症状を抑えるより、その原因となっている疾患をつきとめて治していく根治治療が優先となります。
慢性咳嗽は、原因疾患によって治療方法が異なりますので、それぞれの疾患にあわせて、内服や吸入、吸引、注射、点滴などの薬物治療や、外科的治療を行っていくことになります。
たとえば気管支喘息の治療では、気管を拡げる薬の吸入など、逆流性食道炎による咳であれば、胃酸の分泌を抑制する薬の内服などで対応することになります。
3週間以上にわたって咳が続く場合は、風邪やインフルエンザなどのように自然に治癒する疾患ではない可能性が高いため、対症療法として市販の咳止め薬や風邪薬などで対応すると、かえって症状を強くしてしまうこともあります。
自己判断で、そうした薬をつかってやり過ごそうとせずに、必ず内科を受診するようにしてください。
長引く咳の種類によって正しい診断を行うために
医師は、咳の続く期間、でるタイミング、どのような咳なのかによって、ある程度どこが悪いためにでている咳なのかを判断することができます。
そのため、受診する際には、咳は最初に発熱やのどの痛みといった風邪のような症状があったのか、それとも突然咳の症状がではじめたのかを医師にお伝えください。
また、寝ているとよく咳がでるのか、一日中なのか、人と話しているときなのかといった咳のでるタイミング、ごほごほと湿った咳か、コンコンと乾いた咳なのか、ケンケンとイヌやキツネの鳴き声のような咳なのかといった咳の状態などもお伝え下さい
それによって、医師は咳のでる様々な疾患の中から、ある程度原因疾患を絞りこんでいくことができますので、すばやく正確な診断ができます。